公募テーマ論文

日本人間性心理学会 編集委員長

森岡正芳

 

 編集委員会では先期から重ねられてきた審議を引き継ぎ、機関誌『人間性心理学研究』の更なる充実と、学会の建設的な議論と創造的な発展を期して、いくつかの取り組みを検討しております。そのひとつとしての【公募テーマ論文】枠につきまして、以下にご案内します。

 

○ 編集委員会により設定されたテーマに沿った論考を、広く会員から募る試みを始めます。

  (2016年8月の総会にて承認されました「査読つき論文」の新しい投稿枠となります) 

○ 一般投稿と同じく査読者を立てた審査を経て、採択されたものが機関誌に掲載されます(掲載は一般研究論文とは別枠)。

○ 初めての試みとなります【公募論文】第一回目のテーマは《人間性心理学における現象学の可能性》〔仮〕と設定され、機関誌第35巻第2号に掲載される予定です。会員皆様の積極的な投稿をお待ちします。

 

※ このテーマでの投稿締め切りは2017年3月末となります。投稿規程や執筆要領および倫理ガイドラ インなど、すべて一般「研究論文」に準じます。ぜひ、よろしくお願い致します。

※ ご不明な点は、編集局にてお問い合わせを承ります(edit@jahp.org)。

 

 


第2回 公募論文

コミュニティ

 

テーマ趣旨

 

 家庭、学校、職場、趣味のサークル、地域、ひいては国家に至るまで。私たちは、日常生活の中で、すでに複数のコミュニティに所属しています。私たちの人間性心理学の実践を考えると、実は仕事上の現場のみならず、日頃の様々なコミュニティとの関わりに生かされていることに思い至ります。

 人間性心理学は、人を反応するものではなく、生成過程にあるものと捉えます(日本人間性心理学会,2012)。この生成過程にあるという視点が、個人のみならずコミュニティを捉える射程を備えている、と私たちは考えています。コミュニティは複雑な要素から成り立ち、また大小のものが絡み合って展開されています。そのため、シンプルな反応図式よりも、生成という視点で捉えることがむしろ有効でしょう。

 人間性心理学は当初より、セルフヘルプ・グループやエンカウンター・グループ等の活動を通して社会変革も理念に掲げてきました。これらの実践は、当事者主体のグループ・コミュニティづくり、パーソンセンタード・コミュニティ等の概念で示されますが、実践や理論の検討をする余地はまだ広く残されています。この度、本誌では「コミュニティ」をテーマとして公募特集を行います。共生社会が目指される昨今、人間性心理学の視点からコミュニティの実践や理論を振り返る機会とし、今後のアプローチを模索する礎としたいと考えています。皆さまの積極的なエントリーをお待ちしています。

 

【文献】日本人間性心理学会(編)(2012):人間性心理学ハンドブック 創元社 p.8.

 

企画担当委員 板東充彦

 

第1回 公募論文

《人間性心理学における現象学の可能性》〔仮〕

 

テーマ趣旨

 現象学とは、私たちの経験を「今ここにあるがままに」解明しようとする試みである。

学問はつねに、「普遍的な真理への到達」を課題とする。しかし、臨床や教育や看護等々における、ある人間の超人的な経験や、人と人との奇跡的な邂逅や、日常性を反映する「ありふれた」出来事を取り扱う本学会は、「今ここで」しか生じえない出来事の中に、「いつ誰にでもあてはまるような」という狭い普遍性ではない、本来の普遍性を探究する責任を背負っている。

現象学的精神病理学者の木村敏は、普遍とは「一般が個別を含むのではなくて逆に個別が一般を含む」ことであり、そこには「具体の底に一般を見」ることによって到達されることを示している(『分裂病の現象学』1975弘文堂p.115)。こう考えられるのは、現象学が、zu den Sachen selbst her!(事柄そのものから!)真理をとらえようとするからである。創始者フッサールにいわせれば、世界やその意味は、人間の意識が作り出した現象(そのように現われ見えるもの)でしかなく、世界がみんなにとって共通のものとして(=客観的に)存在しているという「常識的な見方」は、いったん停止する(エポケー)べき素朴な先入観でしかない。

事実、ある誰かにとっての痛みや不安が、「客観的にみれば」大したものでないとしても、当人にとっては生存を脅かすほどの苦しみとして現われ体験されることがある。この一度きりの苦しみを「今ここにあるがままに」とらえ、その苦しみそのものから学ぶとき、すなわち現象学するとき、私たちは、人間の生存を支える何かという真理を探究することになるのだ。

 

企画担当委員 遠藤 野ゆり